「ラッキーさん」は、出世を夢見るモーレツ社員を描いたサラリーマンの物語です。

映画のテーマはサラリーマンの出世争いのようですが、その手段として「上司へのゴマすり」みたいな事が多いように思いました。
「実力主義」という言葉は出てきますが、あまり本当の意味での実力という感じはしません。
今から見ると、けっこう伸び伸びと会社生活をエンジョイしている当時のサラリーマンの姿の方が新鮮な印象でした。

非正規雇用だとか連日のサービス残業、結婚や子育ても満足に出来ないといった現在から見たら、かなり呑気で楽しそうに見えます。
貧富の差はあれど「格差」というような深刻さは感じません。
さすがに70年も経てば、会社という形式は同じでも中身は違ったものに変化してしまうのかもしれません。

向上心旺盛な仕事人間、若原(小林桂樹)


若原俊平は、とても真面目な性格で常に仕事の事ばかり考えています。

そのせいか掴みどころが無いというか、本心を隠しているようにも見えてしまいます。
特に彼に惹かれている女性からは、そういったツッコミをされる事が多く、悪く言えばちょっとツマラナイ男とも言えそうです。

ただ、こういう生真面目で従順な性格はサラリーマンとしては適任らしく、彼は出世のスピードが早い事から皆に「ラッキーさん」と呼ばれています。
何だか運が良いだけみたな、微妙なネーミングです。

そんな若原は、最近 庶務課から社長秘書に抜擢されたばかりです。
そして秘書になって早々に、社長から「会長の娘の結婚相手」に相応しい男を見繕う役目を仰せつかります。
若原は秘書課の女の子と話をしているうち、社内運動会を催してお嬢さんに「出会いの場」を提供するアイデアを貰い、それを実行に移します。

小林桂樹さんの出演している映画


結婚相手募集中の会長令嬢、由起子(杉葉子)


この社内運動会の目的は、前社長のお嬢さん・由起子のお相手を探す為だという噂が拡がったせいか、運動会は大いに盛り上がります。

ところが由起子は、どうやら若原が気に入った様子です。
二人は二人三脚のペアになったりして、ちょっと良い雰囲気になるのでした。

運動会の後も、何かと由起子は若原を誘って遊びに連れ出すようになります。
それでも若原が秘書の立場を守り通すのを見て、由起子は「いい加減に本心を見せて欲しい」と言います。
ところが若原は意外と頑固で「僕は一時の楽しみのために人生を台無しにしたくない」と答えます。
彼にとっては出世こそが第一であり、その他の事はすべて二の次のようです。

でも由起子は、若原と違って「青春の喜び」を味わいたい気分なのでした。

杉葉子さんの出演している映画


実は似たもの同士だった二人

若原は、由起子に好意を持たれていると知るや、だんだん有頂天になって行きます。
ところがそんな矢先、若原は突然 社長から由起子の結婚が決まった事を知らされるのです。
由起子の相手は大きな銀行の御曹司で、この話は以前から持ち上がってはいました。
でも由起子が想いを寄せているのはどう見ても若原であり、これは彼にとって裏切り行為でした。

若原は由起子を訪ね、由起子の仕打ちに抗議します。
ところが由起子から「私も一時の感傷で一生を台無しにしたくはないの」と、いつか若原が自分自身で言った言葉をそのまま返されます。

由起子に「好きなのはあなただけど、結婚する相手ではない」とキッパリ断定された若原は、ぐうの音も出なくなってしまうのでした。

市川崑さんの監督映画


1952年公開

平凡で真面目だけが取り柄の、特に頭が切れるというタイプでも無い主人公が「ガッツ」一つで出世コースに乗っている様子は、努力次第で希望が持てる時代を表していると思いました。

ただ会長令嬢との結婚となると話は別のようで、そこには家柄などの問題が出てくるようです。
大企業ともなると、上に行くほど身分の壁のようなものにぶち当たるのは今も昔も同じという感じがします。

上り調子の若原とは対照的な存在として、万年平社員で中高年になってしまった町田さんというキャラが「サラリーマンの悲哀」の象徴として登場しています。

彼が失敗ばかりして若手に怒られている様子は確かに哀れですが、それでも飛ばされもせず定年まで続けられるというのは、まだ良い方のような気がします。

そしてサラリーマンは「将来が暗い」とか「一生こき使われる」というセリフがよく出てきますが、案外 運動会やお昼休み、飲み会の様子などを見ていると、けっこう楽しそうに見えてしまいます。

現代の就活で苦労する若者や、過酷な労働環境で疲弊する正社員の姿とはだいぶ違うと思いました。

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