「お母さん」への慕情を描いた映画といえば、いの一番に思い浮かぶのはイタリア映画だったりします。

イタリア人の母親への想いはものすごくて、子供たちは幾つになっても逆らう事ができない絶大なる存在という感じです。

それに比べると、日本映画に出てくるお母さんは控えめだけど芯が強く、影の立役者といった印象があります。
夫をたて、調和を大切にし、辛抱強く家庭を支える姿は、家族の心に安らぎを与えてくれます。

今回は、日本のお母さんを描いた作品をまとめてみました。

【おかあさん】お母さんは、暗い社会を照らす心の灯火

「おかあさん」には、戦後の過酷な状況の中で、子供たちのために奮闘するお母さんが描かれています。

ここに登場する家庭は庶民的な一般家庭に見えますが、次々といろいろな悲劇に見舞われて行きます。

むかしは地域で唯一のクリーニング店として繁盛していましたが、店は戦争で失ってしまいます。
おまけに長男は結核で亡くなり、続いて夫も過労で亡くしてしまいます。

お母さんは、女手ひとつで店の再建に追われながら、子育てもしなければなりません。

ところが これほど厳しい状況にありながら、映画の「トーン」は妙にほっこりしています。
最初は違和感を感じながら見ていると、じつはこの呑気なムードは、お母さんの人柄を投影している事が分かってきます。

このお母さんは、どんなに厳しい状況に陥っても、常に笑顔を絶やしません。
病人や子供たちに不安を抱かせないように平静をよそおい、どうしても涙が出るときは人目を忍んでひとり泣きます。

おかげで子供たちは、不安や恐怖に怯えたり、自分たちの境遇に恨みを抱いたりせずに、素直で明るくいられるのでした。

物語は18歳の娘の視点で描かれていますが、この娘はちょっと幼く見えるぐらい呑気な感じです。

この家庭を見ていると、子供というのは「お母さん」というフィルターを通して世界を見ているのかもしれないと思いました。

【晩菊】それでも、やっぱり母は強かった

「晩菊」には、夫と死別した母親とその息子の、母子家庭が登場します。

このお母さんは、くたびれた中年女ですが、あまり立派な母親という感じではありません。

彼女は若い頃に夫を亡くしてからというもの、男に頼ってばかりいたようです。
母親という役割に徹しきれず、いつまでも「女」として男に寄りかかりたいという願望が捨てられませんでした。

息子には、自分の事を「お姉さんと呼びなさい」などと言っていたようです。

成人した息子は、そういう経験もあってか、冷めた感じのリアリストな性格になっています。
チクチクと母親に嫌味を言ったりして、二人は会えば憎まれ口を叩き合うような間柄です。

息子は仕事にも就かず のらりくらりと過ごし、お妾さんと付き合ったりして母親をヤキモキさせますが、じつは結構しっかりしています。
いつの間にかサッサと仕事を決めてきて、お妾さんともキレイさっぱり別れ、勤務先から出た支度金を母親にあげたりします。

仕事は遠く離れた土地での勤務で、その旅立ちは息子の独立を彷彿とさせます。
それまでは、いつも早く厄介払いをしたいと言っていた母親ですが、急に頼もしくなった息子の姿を見ると、こんどは寂しさが溢れ出してきます。

年をとったお母さんは、こんどは息子に寄りかかりたい気分で一杯だったのです。
心細さに耐えきれず、女友達と二人で酒を酌み交わす姿は、愚痴と未練のオンパレードで もうグダグダですww

それでもいざ別れの場面になると、彼女が突然しっかりする様子には驚きます。

「もし、ママに変わった事があっても帰ってこないでいいよ。
ママのことだから、急にカッとなって死にたくなる事があるかもしれないけど・・・
いいよ、帰ってこないで。」

と最大級の強がりを見せる姿には、何だかんだいっても、やっぱりこれまで無事に息子を育ててきた気概を見るようでした。
そして息子の方でも

「ママに何かあれば、すぐ飛んでくるから。
きっと何でも知らせておくれよ」

と神妙な様子になり、毒舌親子の深い絆がしみじみと伝わってきました。

【めし】懐かしい実家は、孤独な主婦の安全地帯

「めし」には、嫁ぎ先で現実に打ちひしがれて戻ってきた娘を、温かく見守るお母さんが描かれています。

ヒロインの主婦は、新婚の頃とはまったく変わってしまった灰色の日常を送っています。

夫はくたびれていて会話も弾まず、生活はカツカツです。
かつて二人は憧れの的のようなキラキラカップルでしたが、いまその頃の面影は見る陰もありません。

「こんな筈ではなかった」
という気持ちで一杯になり、耐えられなくなった彼女は一大決心をして実家へ帰ります。

実家のある懐かしい風景と、母の姿を遠目に見ただけで、追い詰められていた娘は心が安らかになって行きます。
久しぶりの肉親の温かさの中で、彼女は1日中眠りこけます。

妹は具合でも悪いんじゃないか?と心配しますが、お母さんは
「眠いんだよ、女はね。
夫を持つ気疲れだけでも・・・」
と、何もかも含んでいるような落ち着きぶりで、好きなだけ寝かせてあげます。

その後も「帰った方がいいよ」と言いながらも、決して強制はしません。
それとなく婿さんを褒めたりしますが、その様子からは心底 彼を信頼して娘の事を任せているのがわかります。

娘は実家にいる間に、周りのいろいろな夫婦の生き様を目の当たりにします。
そして、自分の視野がいかに狭かったかという事に気付いて行くのでした。

その間、母親はお説教したりせず、かといって大騒ぎして事を荒立てることもしません。
娘が自分で気付いて、自分の力で立ち上がるのを辛抱強く待っているようです。

夫が娘を迎えにきた時、娘は動揺してその場を逃げ出します。
そんな様子を見て母親は
「大丈夫だよ。気を鎮めたいんだろう。
ああいう子なんだよ・・・」
と言い、愛しそうに目を細めます。

お母さんにとって娘は、幾つになっても小さな女の子のままなのでしょう。

その何もかも分かっていて、絶大なる信頼を寄せてくれる かけがえのない存在に支えられて、娘はまた自分の足で歩き始める事ができるのでした。

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