「ひまわり娘」は、新人OLの奮闘記と、女性社員の日常を描いた物語です。

「OLは、結婚までの腰掛け」という、専業主婦の層が厚かった時代が描かれていました。

印象的だったのは、ヒロインの帰りが遅くなったときは、必ず弟くんに駅まで迎えに来てもらうという習慣です。
単に今よりも物騒だったという事もあるかもしれませんが、お嫁入り前の娘が宝物のように大切に扱われている様子が、良い感じでした。

さらに驚くのは、結婚の申し込みを「付き合う」という段階をすっ飛ばして、いきなり親に承諾を得に行く男性の姿です。
今となっては不思議ですが、昔はこういう人たちも結構いたようです。

モテモテの新人OL、節子(有馬稲子)

節子はルックス&性格ともに男性にモテるタイプで、入社早々 女性社員から何かと風当たりが強く、難儀しています。

それでも上司である通称・弁慶さん(三船敏郎)が頼もしい存在なのが救いで、節子はたちまち彼が好きになってしまいます。

職場では、ちょうど女性社員に「お茶くみ」を担当させるのが差別だと主張する『ウーマン・リブ運動』が盛んになっていて、とうとう「お茶くみスト」にまで発展してしまいます。

ところが弁慶さんはお茶が大好きで、節子は彼の為にお茶くらい入れてあげたい気分でした。
あるとき残業で二人だけのときに、節子がこっそりお茶を入れてあげたのが見つかると、呼び出されて「スト破り」だとビンタを食らう始末です。

じつは彼女のこういった扱いの背景には、節子に女性社員ナンバーワンの地位を奪われ、意中の人・田込(伊豆肇)まで節子に持って行かれてしまった恨みを持つ石井(阿部寿美子)という、ストの首謀者でもある存在があるのでした。

有馬稲子さんの出演している映画


影があって浮いている先輩、井田(沢村契恵子)


この「お茶くみスト」なる光景を、冷ややかに鼻で笑いながら見ているOLが一人います。

井田は病気の家族を抱え、たったひとりで家計を支えています。
OLの給料ではとても間に合わず、夜はキャバレーでホステスをしているのでした。
そんな彼女から見たら、親がかりのOLたちが始めたウーマン・リブの真似事など、ヌルくて見ていられないという感じのようです。

そんな井田は、節子に決定的な場面を目撃されてしまいます。
節子はお使いに行った際に、社長の御曹司に食事をごちそうしてもらい、ホテルのレストランから出てきた所でした。
そこへ井田と外国人の男が、チェックインを済ませて部屋へ向かう時に、すれ違ったのです。

こちらに気がついた井田は「お互いに秘密にしましょうね」と釘を差し、節子も密会組と一緒にされてしまうのでした。

沢村契恵子さんの出演している映画

明暗を分けた二人

ところが この井田の行動が、マスコミにすっぱ抜かれてしまいます。

この会社の名前とOLの行状とが、新聞に書かれてしまったのだから、職場は大騒ぎです。
そして節子には口止めしておきながら、井田は節子に敵意むき出しの石井に「ホテルに行ったのは節子らしいよ」と吹聴するのでした。

節子は石井らによって吊るし上げられ、女性社員の集まった会議室で、あらためて追求される事になります。
節子は反論しますが、食事しただけだという事実を証明する術はありません。
彼女は井田を見た事も、最後まで黙っていました。

そこへ、井田に上役から呼び出しが入ります。
井田が兼業しているキャバレーで、会社の取引先の男性が彼女を見かけたという通報が寄せられたのが問題になり、彼女は辞職に追い込まれる事になります。

バカバカしくなった井田は会議室に戻り、ホテルに泊まったのは私だとカミングアウトして、最後まで黙っていた節子の救援に回るのでした。
石井についた嘘への追求に、彼女は答えます。

「あたし、弁慶さんが好きだったの。
だから節子さんにケチつけてやりたかったのよ。
どうせ私は、望みが無いんだしね・・・」

という投げやりなセリフが、彼女の今後の多難さを表しているようで切なくなります。

千葉泰樹さんの監督映画


1953年公開

女性社員の「お茶くみ」問題は、昔から何度となく問題視されてきた話題です。
ルールを設けている会社もあると思いますが、何となく日本社会に根付いた風習のようなものといった方が妥当かもしれません。

筆者の独断ですが、お茶くみが問題視されるのは、どちらかと言えば景気の良い時代に浮上しているような気がします。
ちなみに この映画は、朝鮮戦争による特需景気が発生して不況から脱却し始めた時期で、大規模なストも頻発していた頃のものです。

今は給茶機というテクノロジーで解決済みなのかもしれませんが、どちらかと言えば「それどころではない」というのが本当の所ではないかと思います。

一方で、社会保障が整ったことで、井田さんのように家族の生活を支えるために犠牲になる娘という図が解消されたのは、大きな進歩だと思いました。

今は、どちらかと言えば「共働き夫婦の家事分担」が問題視されていると思います。
確かに「分業」が進み、役割分担が固定化しすぎると、生活に支障を来したり、人間関係に亀裂を生む原因になるのかもしれません。

これからの時代は、時には人に手伝ってもらう「努力」も必要だし、領域外の事にも首を突っ込む好奇心を持ってお互いに幅を広げる事が、豊かな人生につながるという流れになっていると思います。

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